

AMINO YUUSUKE網野優介
ルーツ・スポーツ・ジャパンの事業は多岐にわたります。その象徴の一つが「調査研究事業」。調査研究領域を担当する網野優介は、自治体営業の傍ら、自身もサイクリストであるという強みを活かし、データに基づいた地域活性化の施策を検討しています。地域の実態調査からマーケティング戦略の提案まで行う、スポーツイベント会社の枠を超えた取り組みのやりがいや自社の強みについて、網野に聞きました。
大学までずっと、スポーツの世界に身を置いてきました。中学校までは野球、高校では陸上長距離、大学では箱根駅伝を目指す長距離チームの主務を務めました。就職活動では、先輩や同期に不動産業界に行く人が多かったことと、もともと「まちづくり」に関心があったことから、不動産開発の会社を選択。社会人になって初めて「スポーツが身近にない生活」が始まりました。
スポーツを離れて数か月経ち、不動産開発会社での営業の仕事にも慣れてきた頃、だんだん「スポーツに携わる仕事に就きたい」という思いが強くなっていることに気づきました。実は社会人になる直前に、たまたま自転車を始めていたんです。休日に少しずつ、レースにも出るようになっていた時期で、やっぱりスポーツに関わっていたいと思うようになりました。
そこでスポーツ関連の仕事での転職を考え、ルーツ・スポーツ・ジャパン(以下、RSJ)を知りました。「サイクルツーリズム」「スポーツツーリズム」という言葉自体は知りませんでしたが、「自転車×まちづくり」という方向性に深く共感しました。こんなに自分の関心と合致している会社は珍しいと感じましたね。RSJがサイクリストへのリスペクトや理解のある会社だったこともあり、飛び込むことを決めました。
入社後は、単日型(1Day)イベントの運営・準備のアシスタントの仕事をしました。しかしほどなくしてコロナ禍となり、人が集中するイベントの開催が難しくなったため、会社としてアプリを使った「期間型」イベントに注力するようになっていき、期間型のイベントで連携することの多い自治体への営業担当になりました。
また営業の傍ら、サイクルツーリズム市場の調査や分析にも携わるようになりました。サイクルツーリズム業界は、主観的に意思決定するケースが多くあります。たとえば地域の一サイクルショップの店主の方のご意見が、そのエリアの自治体で行われるサイクリング施策の方向性を決定づけるようなこともあるんです。もちろんそういった方の意見も大切ですが、一方で、個人のバイアスが入らない客観的なデータを基に判断するということも非常に重要なはずです。
「客観性」と「サイクリストの視点」の両方を持ち合わせた提案ができる点が、RSJの強みです。
具体的な調査内容としては、「サイクリストが地域に何人来ているのか」といった現状把握からスタートします。さらに「どの属性の人が、どれくらいお金を使っているか」「一人で来るのと複数人で来るのでは、どちらが地域での消費額が多いか」などを分析していきます。
データ収集には様々な方法を使います。1万人規模のオンライン調査を外部に委託して実施することもあれば、より絞り込んで調査をしたい場合は、RSJが持つサイクリストのデータを活用し、サイクリスト1,000名にアンケート調査を行うこともあります。予算に応じて効率的な調査ができるのが特徴です。
また、普通の調査会社なら分析して終わりですが、私たちはそこからが本領発揮です。たとえば調査の結果、「40代男性で、複数人で来訪するケースが最も消費額が大きい」とわかったとします。それを踏まえ、40代男性が複数人で訪れたくなるような施策を考え、自治体に提案していきます。このように、調査と営業が一体となっているのが私たちの強みです。近年では観光庁と連携した全国規模の「サイクリスト国勢調査」も実施し、その内容を見て「うちの自治体でもやりたい」という問い合わせも増えています。
調査結果からは面白い地域差が見えてくることがあります。たとえば、関東の某地域と北陸のある地域を比較すると、前者は宿泊率が低く日帰りが多いのに対し、後者では2泊3日が当たり前。首都圏からの距離で考えれば当然とも言えますが、それが数字として明確に出てくると、施策を考える視点も変わってきます。
宿泊すると宿泊費だけでなく、お酒を飲んだり温泉に入ったりと、お金を使う機会が増えるので、消費単価は上がります。ある県庁さんでは他地域と比較した時に宿泊率が低いことがわかったので、県のほうで「サイクリストの優待施設制度」を整備することとなり、自転車を部屋に持ち込めるように宿泊施設と調整し、Webサイトで宿泊施設の一覧を公開しました。
また別の調査では「インフルエンサーを情報源にしている人が多い」というデータが出たので、その結果を元に、施策として3組のインフルエンサーをその県のPRに特化する「サイクリングナビゲーター」に任命することとなりました。ただ有名な人を起用するのではなく、「観光ポタリング(軽いサイクリング)が好きな人」「ヒルクライムが大好きな尖った人」「バランス型の人」と、タイプの異なるインフルエンサーを選出し、それぞれの特性を活かして地域の魅力やコンテンツ企画を発信してもらいました。
このプロジェクトへの参加者にアンケートを取ると、約2割が「インフルエンサーの投稿を見て訪れようと思った」という結果も出ました。自分がした調査を生かした施策を実行されているのを見ると、やりがいを感じますね。
私にとって自転車は、私生活においても大きな部分を占めています。現在は、アマチュアサイクリストとして、本格的にレースに参加しています。私自身はレース族なので、「競技としての自転車」を楽しんでいますが、今後は日常生活での自転車利用や、アクティビティや観光としてのサイクリングを含め、「自転車の社会的地位の向上」に貢献していきたいと考えています。
日本は“ママチャリ”が普及しており、日常的に自転車に乗る人が多い国です。にもかかわらず、道路上での自転車の地位はまだまだ低いんです。ただ、小池都知事が東京で自転車環境整備に力を入れているように、自転車が社会にもたらす価値が再認識される流れが来ているようにも思います。サイクルツーリズムはその一つのきっかけになると考えています。「自転車を通して地域に人を呼びこめる可能性を感じるから、そのために環境整備をする」という認識を持つ自治体も、増えていくでしょう。
自転車は本来、健康増進や排気ガス削減など、社会全体にとってプラスの変化につながっていくはずです。サイクルツーリズムだけでなく、移動手段の一つとして自転車に乗る人が増えれば、メタボ解消になって社会保険料が下がったり、排気ガスが減って空気が綺麗になったりといった効果が期待できるんです。このような価値も含め、自転車の可能性を広げていきたいと思っています。
ママチャリでもいいし、シェアサイクルでもいいし、ロードバイクでもいい。いかに自転車を使ってもらうか、という視点でデータを集め、分析し、それに基づいた施策を打ち出していくことで地域に貢献していきたいです。
【聞き手・執筆/落合真彩(フリーライター)】