全国各地のサイクルツーリズムを語り合う――6年目を迎えた「サイクルボール」記者発表イベントを実施しました!

全国各地のサイクルツーリズムを語り合う――6年目を迎えた「サイクルボール」記者発表イベントを実施しました!

2025年8月22日、渋谷ストリームでツール・ド・ニッポン(一般社団法人ルーツ・スポーツ・ジャパン)が主催する「サイクルボールSeason 6 -グランボール制覇の旅-」記者発表会を開催しました。

普段は遠く離れた地域の担当者たちが全国10地域から一堂に会し、サイクルボールSeason 6の各ステージの発表、そして初の試みである意見交換会を実施しました。緊張と期待感が高まる会場の様子をレポートします。

コロナ禍から始まった「新しいサイクリングイベント」の形

冒頭挨拶でルーツ・スポーツ・ジャパン(以下、RSJ)代表理事の中島祥元は、このように「サイクルボール」の原点を振り返ります。

「思い起こせば2020年、新型コロナウイルスが始まった年に始めたのが、この企画でした」

大勢が集まるイベントが困難になった2020年、サイクリングイベントを手がけてきたRSJは大きな転換点を迎えていました。

しかしその危機感から生まれた、全く新しいアイデアがあります。
「アプリを活用した期間型イベント」
「いつでも、誰でも、一人でも参加できる新しいサイクリングイベント」
これらの発想が、サイクルボール企画の第一歩となりました。

今回の記者発表では、サイクルボールの概要紹介と「サイクルボール総選挙2025」と題した企画における各ステージのプレゼンテーションを実施、そして第2部として、地域同士の意見交換会を設けました。

中島は会場に集まった自治体担当者に向けて「こういう場を作れることも、全国横断の取り組みのいいところの一つだと思っています。ぜひこの機会を活用いただき、今後のサイクルツーリズム施策に活かしていただければ」と話しました。

「サイクルボール」を機に関係人口を創出

次に、理事の袴田晃一郎がサイクルボールの概要を紹介。自転車の女神から走破の証として手に入れられる「サイクルボール」とは何か?と、その歩みを語りました。

初年度(2020年)7ステージだった「サイクルボール」は、2025年度の今シーズンは16ステージへと2倍以上に増加。参加者数は初年度から7000名を超えており、今年度は1万名を目指すまでに。すべてのステージを走破する「グランボール制覇者」は、初年度21名から昨年度は49名までに増えています。

参加者が集めたサイクルボールの数に応じて、自転車の女神がサイクリストの「願い」を叶えます。「願い」とは、各ステージの地域やパートナー企業様から提供いただいている商品(グランボール賞)のこと。秋田の比内地鶏きりたんぽ、伊豆の金目鯛、霞ヶ浦湖畔の古民家宿泊券といった、豪華な特産品や体験がラインナップされています。

「サイクルボールは参加者が地域の魅力を発見し、その地域のファンになっていただき、また訪れたくなる、友人にもすすめたくなる、そういった地域の関係人口を創出するプロジェクトとしても位置付けております」(袴田)

グランボール制覇だけでなく、サイクリングアプリ「TraVelo(トラベロ)」内でレビュー投稿をしたり、フォトフレーム機能で撮影を楽しんだり、サイクルボール優待店舗でお得に滞在するなど、様々な楽しみ方も紹介しました。

サイクルボールの特徴は、期間型のイベントでありながら、地域ごとに1DAY型イベント「チャレンジDAY」も開催している点。みんなで一緒に挑戦することができる機会として好評です。

袴田は「今年これまで開催したチャレンジDAYは、どれも満員近いご好評をいただいています。この一体感、高揚感は1DAYイベントならではですので、他の地域でも展開をしていきたい」と意気込みを話しました。

「サイクルボール総選挙」企画も実施!

続いて、今年度のSeason6に参画している16ステージのコース概要やグランボール賞紹介に移りました。

サイクルボールとして初の取り組みとなる「サイクルボール総選挙2025」では、各ステージによる30秒のショート動画のうち、SNSでの「いいね」数最多獲得ステージには自転車インフルエンサーを派遣し、さらなる魅力発信が行います。また、実際に「いいね」を押してくださったユーザーの方にも抽選で自転車グッズをプレゼントいたします。

“撮り直しなしの1本撮り”ということで緊張感が高まる中、各地域が趣向を凝らしたプレゼンテーションを行っていました。

秋田では比内地鶏きりたんぽが待つ「あききたいち」となまはげの故郷「オガイチ」。宮城では震災復興の歩みを感じる「おしいち」と仙台市北部の大和町を巡る「たいわいち」。「オガイチ」「たいわいち」はサイクルボール初参画のステージです。

関東圏では霞ヶ浦の「かすいち」から筑波山の「つくいち」、房総半島を巡る「房総いち」、そして都内から最も近いサイクリスト天国「おおいち」まで。特に大島町担当者による着ぐるみと紙芝居を使ったプレゼンテーションでは、会場が一気に和やかな雰囲気に包まれました。

静岡では「最強かつ最恐の最難関ステージ」と銘打つ「伊豆いち」、狩野川沿いの「かのいち」、富士山を360度楽しむ「富士いち」。7月より第2弾ステージとして加わった東京都稲城市を発着とする「多摩いち」、ナショナルサイクルルートにも指定されている「とやまいち」、瀬戸内海最大の島・淡路島の海岸線をぐるりと走る「アワイチ」。そして、9月からは中京エリア初の「知多いち」とサイクリストの憧れ「ビワイチ」が加わります。

最後に、サイクリストの願いを叶えるべく、サイクルボールにご協賛いただいた企業様のご紹介を行い、記念に、参加地域の皆さんでフォトセッション。これにて、第1部は終了です。

調査で明らかになったサイクルツーリズムの現状と課題とは?

第2部ではRSJの伊藤と網野の進行で、「サイクリスト国勢調査2025」の自治体向け調査結果や、当日参加の地域を対象に行ったアンケート結果をもとに、各自治体のサイクルツーリズム施策の状況を考察。

参加者の皆さんも強く関心を持っているテーマであり、真剣なまなざしで調査結果を見ていました。

調査結果からは、これらの示唆が得られました。

  • 自転車活用推進計画を立てている自治体ほど「成果が出ている」と感じている
  • 取り組み期間が長いほど、課題は進化(高度化・複雑化)する
  • 効果測定できない地域ほど、成果を感じにくくなる

特に「計画の策定」と「効果測定」の有無によって、成果実感や実際の効果に大きな差が出ていることが明らかになっています。

その後、参加地域の皆さんから、KPIやその達成のための取り組みを発表。「イベント参加者数」「イベントの開催数」「アプリ利用者数」など、数値計測をしやすい地域がある一方、「伊豆いち」のような「最難関コースであること」を重視し、参加人数は追わないという戦略を持った地域もありました。

KPI設定の状況と同時に、「成果・効果の測定」「情報発信」という共通の課題も浮かび上がりました。網野は「皆さんはサイクルツーリズム施策において全国でも先を行っている。先進自治体ならではの、レベルの高い悩み」とコメントしました。

効果測定という共通の悩みに対しては、RSJから具体策をお示ししました。たとえば、「来訪人数×来訪回数×消費単価」の掛け算で考えるという方法は、わかりやすく実際の現場でも使える考え方です。

また、統計的な方法で行うWebアンケート調査では、全国のサイクリストの動きや地域ごとの訪問状況、お金の使い方まで詳しく調べることができます。

各地域で上手くいっている取り組みの中で一番多かったのは、「走行環境の整備」でした。地元の店舗や施設にサイクルラックを置く、道路に矢羽根の表示をする、レンタサイクルの仕組みを作るなど、「ハード面」でサイクリストの受け入れ体制づくりが各地で着実に進んでいます。

自身が現役のサイクリストである網野も「サイクルラックがあると、サイクリストは『歓迎されている』と感じる」と強調しました。さらに「壁のすぐ横にラックがあると自転車をかけられない」といった実用的なアドバイスも飛び出し、現場をよく知っているからこその議論が続きました。

袴田は「サイクルツーリズムで効果を上げたいなら、やはり効果をKPIにするのが良い」とコメント。ただし「完璧な数字を求めるのは難しいので、計測可能な数値と、その地域で皆が納得しやすい指標を組み合わせることが大切」と、現場視点も付け加えます。

そして「どんなKPIならどんな計測方法があるか、メニュー表をつくって皆さんに提供したい」と今後の支援方針も話しました。

全国横断の取り組みだからこそ地域間のつながりを提供できる

最後に代表理事の中島が再び挨拶。「初めて第2部の情報交換会をしてみて、私たちもとても勉強になった。これからもサイクリストの皆さんに楽しんでもらえ、そして各地域の皆さんにも喜ばれるサイクリングの企画を続けていきたい」と話しました。

イベント終了後も、地域担当者同士で名刺交換をしたり、サイクルボールのグッズや各地域から寄せられたご当地のお菓子などを楽しみながら歓談していました。

全国横断的な取り組みという特徴を活かし、地域自治体の方々が一堂に会する機会となったサイクルボール記者発表イベント。ここで得られた知見や、他地域の担当者とのつながりを、今後の地域ごとの取り組みに活かしていただければ幸いです。

【取材・執筆/落合真彩(フリーライター)】